祈年祭祝詞

としごいのまつりののりと

111

諸社の神々への奏上

集侍うごなはれる神主かむぬし・祝部等はふりども、諸もろもろ聞しきこし食せめせと宣るのる

高天原たかまのはらに神留りかむづまり坐ます皇睦神漏伎命すめらがむつかむろぎのみこと・神漏弥命かむろみのみこと以ちてもちて

天社あまつやしろ・国社くにつやしろと称辞竟たたへごとをへ奉まつる皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

今年二月ことしきさらぎに御年始みとしはじめ賜たまはむとして

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを朝日あさひの豊逆登とよさかのぼりに称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

御年みとしの皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

皇神等すめがみたちの依よさし奉まつらむ奥おきつ御年みとしを

手肱たなひぢに水沫画みなわかき垂たり、向股むかももに泥画ひぢかき寄よせて取作とりつくらむ奥おきつ御年みとしを

八束穂やつかほのいかし穂ほに皇神等すめがみたちの依よさし奉まつらば

初穂はつほをば千穎八百穎ちかひやほかひに奉まつり置おきて

甕みかの閇高知へたかしり、甕みかの腹満はらみて並ならべて、汁しるにも穎かひにも称辞竟たたへごとをへ奉まつらむ

大野原おほぬのはらに生おふる物ものは甘菜あまな・辛菜からな

青海原あをみはらに住すむ物ものは鰭はたの広物ひろもの・鰭はたの狭物さもの、奥おきつ藻菜もは・辺へつ藻菜もはに至いたるまでに

御服みそは明妙あかるたへ・照妙てるたへ・和妙にぎたへ・荒妙あらたへに称辞竟たたへごとをへ奉まつらむ

御年みとしの皇神すめがみの前まへに白しろき馬うま・白しろき猪ゐ・白しろき鶏かけ、種種くさぐさの色物いろものどもを備そなへ奉まつりて

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

大御巫おほみかむの辞竟このことをへ奉まつる皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

神魂かみむす・高御魂びたかみむす・生魂びいくむ・足魂すびたる・玉留魂むすびたまつ・大宮乃売めむすびおほみや・大御膳都神のめおほみけつかみ・辞代主ことしろぬしと御名みなは白まをして、辞竟ことをへ奉まつらくは

皇御孫命すめみまのみことの御世みよを手長たながの御世みよと堅磐かきはに常磐ときはに斎いはひ奉まつり

茂いかしの御世みよに幸さきはへ奉まつるが故ゆゑに

皇吾睦神漏伎命すめらあがむつかむろぎのみこと・神漏弥命かむろみのみことと皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

座摩ゐがすりの御巫みかむの辞竟このことをへ奉まつる皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

生井いくゐ・栄井さくゐ・津長井つなが・阿須波ゐあす・婆比支ははひぎと御名みなは白まをして、辞竟ことをへ奉まつらくは

皇神すめがみの敷しき坐ます下したつ磐根いはねに宮柱太知みやばしらふとしり立たて

高天原たかまのはらに千木高知ちぎたかしりて皇御孫命すめみまのみことの瑞みづの御舎みあらかを仕つかへ奉まつりて

天あめの御蔭みかげ・日ひの御蔭みかげと隠かくり坐まして四方よもの国くにを安国やすくにと平たひらけく知しろし食めすが故ゆゑに

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

御門みかどの御巫みかむの辞竟このことをへ奉まつる皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

櫛磐間門命くしいはまとのみこと・豊磐間門命とよいはまとのみことと御名みなは白してまをして、辞こと竟へをへ奉らくまつらくは

四方よもの御門みかどに湯津磐村ゆついはむらの如ごとく塞さやり坐まして

朝あしたには御門みかどを開ひらき奉まつり、夕ゆふべには御門みかどを閉たて奉まつりて

疎うとぶる物ものの下したより往ゆかば下したを守まもり、上うへより往ゆかば上うへを守まもり

夜よの守まもり・日ひの守まもりに守まもり奉まつるが故ゆゑに

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

生嶋いくしまの御巫みかむの辞竟このことをへ奉まつる皇神等すめがみたちの前まへに白まをさく

生国いくくに・足国たるくにと御名みなは白まをして、辞竟ことをへ奉まつらくは

皇神すめがみの敷しき坐ます嶋しまの八十嶋やそしまは

谷蟆たにぐくの狭度さわたる極きはみ、塩沫しほなわの留とどまる限かぎり

狭さき国くには広ひろく、峻さがしき国くには平たひらけく、嶋しまの八十嶋堕やそしまおつる事無ことなく

皇神等すめがみたちの依よさし奉まつるが故ゆゑに皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

辞別ことわけて伊勢いせに坐ます天照太御神あまてらすおほみかみの大前おほまへに白まをさく

皇神すめがみの見霽みはるかし坐ます四方よもの国くには

天あめの壁立かきたつ極きはみ、国くにの退立そきたつ限かぎり、青雲あをぐもの靄たなびく極きはみ、白雲しらくもの墜坐向伏おりゐむかぶす限かぎり

青海原あをみはらは棹柁干さをかぢほさず、舟ふねの艫への至いたり留とどまる極きはみ、大海おほわたに舟満ふねみちつづけて

陸くがより往ゆく道みちは荷にの緒縛をゆひ堅かためて、磐根木根履いはねきねふみさくみて

馬うまの爪つめの至いたり留とどまる限かぎり、長道間ながちひまなく立たちつづけて

狭さき国くには広ひろく、峻さかしき国くには平たひらけく

遠とほき国くには八十綱打掛やそつなうちかけて引ひき寄よする事ことの如ごとく皇太御神すめおほみかみの寄よさし奉まつらば

荷前のさきは皇太御神すめおほみかみの大前おほまへに横山よこやまの如ごとく打積うちつみ置おきて、残のこりをば平たひらけく聞きこし看めさむ

又また皇御孫命すめみまのみことの御世みよを手長たながの御世みよと堅磐かきはに常磐ときはに斎ひいはひ奉りまつり、茂しいかしの御世みよに幸はへさきはへ奉るまつるが故ゆゑに

皇吾睦神漏伎すめらあがむつかむろぎ・神漏弥命かむろみのみことと宇事物頸根うじものうなね衝きつき抜きてぬきて

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

御県みあがたに坐ます皇神等すめがみたちの前まへに白さくまをさく

高市たけち・葛木かづらき・十市とほち・志貴しき・山辺やまのべ・曽布そふと御名みなは白まをして

此この六むつの御県みあがたに生なり出いづる甘菜あまな・辛菜からなを持もち参来まゐきて

皇御孫命すめみまのみことの長御膳ながみけの遠御膳とほみけと聞きこし食めすが故ゆゑに

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

山口やまのくちに坐ます皇神等すめがみたちの前まへに白さくまをさく

飛鳥あすか・石寸いはれ・忍坂おさか・長谷はつせ・畝火うねひ・耳無みみなしと御名みなは白まをして

遠山とほやま・近山ちかやまに生おひ立たてる大木おほぎ・小木をぎを本末打切もとすゑうちきりて持もち参来まゐきて

皇御孫命すめみまのみことの瑞みづの御舎仕みあらかつかへ奉まつりて

天あめの御蔭みかげ・日ひの御蔭みかげと隠かくり坐まして四方よもの国くにを安国やすくにと平たひらけく知しろし食めすが故ゆゑに

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟たたへごとをへ奉まつらくと宣のる

水分みくまりに坐ます皇神等すめがみたちの前まへに白さくまをさく

吉野よし・宇陀ぬうだ・都祁つげか・葛木づらきと御名みなは白まをして、辞竟ことをへ奉まつらくは

皇神等すめがみたちの寄よさし奉まつらむ奥おきつ御年みとしを八束穂やつかほのいかし穂ほに寄よさし奉まつらば

皇神等すめがみたちに初穂はつほは穎かひにも汁しるにも

甕みかの閇高知へたかしり、甕みかの腹満はらみて並ならべて称辞竟たたへごとをへ奉まつりて

遺りのこりをば皇御孫命すめみまのみことの朝御食あさみけ・夕御食ゆふみけのかむかひに

長御食ながみけの遠御食とほみけと赤丹あかにの穂ほに聞きこし食めすが故ゆゑに

皇御孫命すめみまのみことの宇豆うづの幣帛みてぐらを称辞竟へたたへごとをへ奉らくまつらくと諸もろもろ聞しきこし食せめせと宣るのる

辞別けてことわけて、忌部いみべの弱肩よわがたに太繦ふとだすき取りとり掛けてかけて

持もちゆまはり仕つかへ奉まつれる幣帛みてぐらを

神主かむぬし・祝部等はふりども受けうけ賜はりてたまはりて、事過たずことあやまたず捧げささげ持ちてもちて奉れたてまつれと宣るのる

現代語訳諸社の神々への奏上

意訳を含みます

参集さんしゅうした神主かんぬしと祝部はふりべに、よく聞くきくよう命じますめいじます。高天原たかまのはらに鎮まるしずまる皇祖こうその神々かみがみの御心みこころにより、天つ社あまつやしろ・国つ社くにつやしろの神々かみがみの前まえで、今年二月ことしきさらぎ、年としの実りみのりを始めてはじめていただくため、皇御孫命すめみまのみことからの尊いとうとい幣帛へいはくを朝日あさひの昇るのぼる時ときに称えてたたえて奉るまつると申し上げますもうしあげます。

注記

「御年始め」は、年の初めと農作の始まりを重ねる表現として解しています。

冒頭

諸社の神々への奏上1 / 11

祈年祭祝詞

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祈年祭祝詞

祈年祭祝詞について

概要

年の初めに諸社の神々へ幣帛を奉り、五穀の豊かな実り、御代、宮、国土、食物を支える神々の守りを願う古代の祝詞です。

構成
11節
本文量
1701字
注記
3件

この祝詞で願うこと

  • 五穀の豊作を願うこと
  • 御代と国土の安泰を願うこと
  • 諸社の神々へ幣帛と初穂を奉ること

神々・対象

御年の神々
豊かな稔りを願う中心の神々
神祇官の八神・座摩神・御門神・生島神ほか
宮中、国土、御膳を支える神々
天照大神
四方の国と御代に関わる神として幣帛を奉る対象

由来と位置づけ

『延喜式』巻八に収められた祈年祭の祝詞です。年の初めと農作の始まりを重ね、神祇官の八神から御県・山口・水分の神々まで、祭祀と暮らしを支える神々へ順に申し上げます。

本文の流れ

全11節で、「諸社の神々への奏上」から「幣帛奉納の結び」までをたどります。

読む前に知っておきたいこと

  • 十一節を通じて、穀物から宮中・国土・食物・水へ祈りの範囲が広がります。

  • 農作、供物、貢納の列挙は、当時の祭祀と国の広がりを示す重要な部分です。

  • 「座摩」など伝承によって読みが異なる語を含みます。

祈年祭祝詞

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